INOMATA氏からです。お盆休みなどで時間がある方は、
是非チェックしてみて下さい。
『原子力神話からの解放』
高木仁三郎氏による著書です。核科学を専門とし、自ら「市民科学者」を名乗り、
2000年8月にこの本を発表した2ヶ月後になくなった方です。
10年前の著作ですが、原子力に関する広い問題点をすでに分かりやすく指摘した
名著といえると思います。
この本は以下、11の章からなりたっていて、原子力の九つの神話を解体、幻想を暴いています。
1:原子力発電の本質と困難さ
2:「原子力は無限のエネルギー源」という神話
3:「原子力は石油危機を克服する」という神話
4:「原子力の平和利用」という神話
5:「原子力は安全」という神話
6:「原子力は安い電力を提供する」という神話
7:「原発は地域振興に寄与する」という神話
8:「原子力はクリーンなエネルギー」という神話
9:「核燃料はリサイクルできる」という神話
10:「日本の原子力技術は優秀」という神話
11:原子力問題の現在とこれから
先頃文庫化されたので、例によって本体を手にとって読んでみてほしいのですが、
興味をもってもらうのが先かと思い、特に今、電力会社や誤用学・・・、
おっと御用学者がマスメディアを通じて声高に叫んでいる部分に焦点をあててかいつまんで説明します。
6:「原子力は安い電力を提供する」という神話
・・・50年代から70年代前半において、アメリカを初めてとして、本格的な原発稼働の動きが強まる。
しかし、70年代後半には、商業用発電としての原子力の神話が崩れ始めた。
「原子力市民年間」により、アメリカでの原発の発注数とキャンセルの推移を比較。
80年代、発注数よりキャンセル数が上回り、90年代においては、どちらもほぼゼロになっている。
民間の電力会社が多数あるため、競争を勝ち抜くことが非常に厳しく、原発における倫理的問題以前に、
市場原理が働いて、このような数字が現れたと考えられる。
結果として、アメリカ、フランスを中心とした欧米で、原発の新規建設はなくなってしまった。
逆に、中国、韓国、日本のみが建設異なった流れで建設を押し進めている。
こうした世界的な流れのなかで、日本でも電力自由化が、ゆっくりと推進されてきた。
95年、電力会社に他企業が電気を売ることができるような法律が出来、
2000年、電力会社以外の企業が、大口需要家に、直接電気を販売することができるようになった。
※もちろん、ご存じの通り、電力会社の送電設備を使用してに限る。
一企業が電力事業に参入することからみても、原子力以外の電力は原子力よりコストが
かからないことがわかってしまった。このまま進めば、電力自由化は実現されるはずだ。
しかし、通産省(現経産省)は逆方向への運動を見せた。
99年のJCO事故直後に「原子力発電の経済性について」という形で試算を発表。
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80年代は、原子力はキロワットあたり9、10円。
※火力に比べて2円は安いという発表。
今回の試算表において、キロワットあたり6円。※LNG火力に比べて若干安いという試算
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上記の試算に、処分などのコストはいっさい含まれていない。
さらに、事故後なのに、何故かコストが下がっていて、原発の耐用年数を増やすことで実現した数字であった。
元々16年で試算していた耐用年数を一気に40年にし、さらに原発の稼働率も70%から80%に上げたのが
上記の内容である。
このようなことから見ても、原発による電力コストは、やはり高いと言わざるを得ない。
7:「原発は地域振興に寄与する」という神話
●問い
果たして、原発があることで、地域は発展するのだろうか。
原発が生み出す巨大な電力は地元の為ではなく、都市に送られる。直接地域を豊かにする施設ではない。
つまりある種の迷惑施設であるため、迷惑料として様々な形でお金が地元に渡ることになる。
電源三法という法律や、交付金、さらに原発にかかる固定資産税などである。
■原発を誘致する際の具体的なメリット
原発自体の固定資産税、建設過程また、建設後も様々な点検による地元雇用の吸い上げ。
さらにその雇用に付随した周辺の雇用や建設業など。
また、電源三法交付金による収入もある。原子力施設の大きさ、
あるいは電力量に応じて交付金とか補助金の形で地元におりる。
また、海辺にできる原発は、地元の漁業権の放棄に伴って、その補償金も支払われる。
上記のような形での金額はまだ十分とはいえず、原発の建設の終了とともに終わってしまう性格のお金である。
そのため、別の様々な形で地元にお金がいくようなシステムがある。
(核燃料税、または電気料金の値下げなど)
■長い目で見て、地域振興には有効か
様々な形での補助金があるものの、最終的には直接地域にプラスにはならない。
※1994年、原子力長期計画改訂に関するご意見をきく会にて、当時の敦賀市長、高木孝一氏による発言を引用しています。
長いので要約しますが、「国策として原発を推進し、それに呼応して原発を若狭地区を中心に15基建設してきた。
しかし、その若狭地区には国道27号一本しかない」
ご存じの通り、若狭地方は茨城の東海村と並んで、日本における原発の象徴的地域である。にも関わらず、
地域にはメリットがないではないか、といった発言を地元市長がす
意味は非常に象徴的である。
さらに、一番大きな点は、原発があることによって地場産業は起きないという点である。原発を建設することによって
最終的には、地元に付随する産業、ではなく、原発に付随する地元、というような主従が逆転してしまい、
地元はかえって衰退する。
「全国原子力発電所所在市町村協議会」作成の「原子力発電所に関する固定資産税収入」より
100万キロワット発電の原発一基あたり、初年度37億円の固定資産税の収入がある。
とても大きな金額であるが、約6年で半減し16年で減価償却される。
その上、地方交付税交付金の金額の大きさによって、ある程度相殺されてしまい、実際の収入は25%ほどになる。
つまり初年度の37億は10億以下にまで減少してしまう。
これらが原発による収入であるが、結局産業誘致には使えないため、いわゆるハコモノ行政となってしまう。
ハコモノは維持費がかかる。原発に関わるあらゆる収入は少なくなるため、相対的に出ていくお金は大きくなってしまう。
これを改善するために、新たな原発を誘致しなければならず、結果としては、ある種の中毒状態のように陥ってしまう。
新潟、福島、福井の三県で日本の原発の6割をまかなっている現状は、それをはっきりと表している。
以上のような状況であるため、脱却するのは非常に困難であり、課題はそのまま現在まで継続中である。
※1995年もんじゅの事故後、当時の福島、新潟、福井の県
知事が、橋本総理に「今後の原子力政策の進め方について提言」という文章を送付。
「国民の理解と納得が必ずしも十分でない状況であっては、これまで原子力政策、エネルギー政策に貢献し、
現在も核燃料サイクルから派生する様々な国策上の諸問題に直面している各自自体においても、
今後、住民の理解と協力を得ることができず、かえって原子力行政に対する不安、不審を募らせるものと危惧する」
これまでは、国策であった為、逆らえなかったので、いろいろな予算をつける形で要求をしていた自治体。
ここでは、原子力行政そのものを問い直せ、地域は納得しないと公式に表明し始めた。
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2000年の段階で、的確に現状を捉えていて、正しく未来を見通す目を持っていた人がいたことは、驚きを禁じえません。
語り口もソフトで、読みやすい内容です。ぼくらが抱く、原子力にまつわる様々な疑問点を氷解させるには、
至極の一冊だと思います。